がん治療がん光免疫療法&がん超音波免疫療法
がん細胞を局所で光や超音波を用いて破壊し、
体内の免疫細胞を刺激し転移病巣の抑制も可能なダブルの効果が期待できる治療法
がん光免疫療法(がん超音波免疫療法)について
体内のさまざまな場所にできたがん組織のごく近くにレーザー光や超音波をあてて腫瘍を破壊し、その後周囲に散らばったがん細胞を免疫細胞によって駆除させる、二つの作用をもつ治療法です。
がん光免疫療法の方法
がん光免疫療法では、MLDS(マルチレーザーデリバリーシステム)※1というレーザー機器や近赤外線ライトなどを使用します。光の感作物質(光と反応する物質)をがん細胞に集中させておき、がん組織に特定の波長の光を照射することで、がん細胞の中に活性酸素を発生させ、がん細胞を自殺に導きます。光の照射は痛みも熱さも感じません。
また皮膚の表皮は太陽にあたって日焼けをしても、内臓が痛まないように防御機能があります。このため、治療の光に対しても防御能力があることから、場所によっては局所麻酔などをして皮膚を穿刺し、皮下組織や腫瘍の直近まで光を発射部位に誘導し、照射を行います。また同じように血液中に照射することで、血管内に存在する腫瘍循環細胞(CTC)に対しても破壊効果を生むことができます。
当院で用いる代表的な光感受性物質
当院の光免疫療法おいては、患者さまに合わせていくつかの光感受性物質を使用しております。患者さまに併せて単独または複数を組み合わせて使用します。
①ICG(インドシアニングリーン)
ICG(インドシアニングリーン)は、もと、肝機能の悪い方の残存肝機能を調べるための有名な検査薬です。そのため肝機能や腎機能の悪い方でも使用できますし、これをリポソーム封入することで、がん細胞優位に集中するように加工し安全度を高めています。100ナノメートル(がん細胞の細胞膜を通過できるが、正常細胞には取り込まれない)程度の大きさにリポソーム化しており、EPR効果※2いう理論を用いてがん細胞に集積させます。点滴投与(およそ40分程度)を行い、翌日、がん細胞に集積した状態で照射を行います。
ICGは特殊な装置(近赤外線カメラシステム)で、観察することができます。リポソーム化しICGが本当にがんに集中するのかどうかについて、当院で研究した結果について、2021年5月に学会発表を行っております。その結果、乳がんや咽頭がん、腎臓がんなど様々な症例での検討を行いましたが、インドシアニングリーンが、がんに集まる性質が確認され、また最大限にがんに影響を与えることのできる照射時間なども判明しましたので、当院の光免疫療法の治療照射プロトコールとしております:第43回日本癌局所療法研究会「ICG 修飾リポソームを用いた光線力学的療法における至適照射時期 - 自験例 4 例の考察 -」。
②ALA アミノレブリン酸
ALAは広く自然界に分布し、赤ワインや納豆といった発酵食品や緑黄色野菜に多く含まれる天然のアミノ酸です。植物においては葉緑素の原料になりますし、人体では細胞内のミトコンドリアの働きに欠かせない物質であり、ヘムといわれる赤血球の構成成分のヘモグロビンの原料としても利用される化合物です。そして、このヘムが合成される過程でのPPⅨ(プロトポルフィリン)という物質が、光に反応するためそれを利用して治療を行います。正常な細胞ではPPⅨはすぐにヘムに合成されますが、がん細胞ではPPⅨからヘムを合成する酵素が弱いことが分かっており、がん細胞の中で長くPPⅨの状態でとどまっていることが分かっています。その状態に特定の波長の光や超音波を当てることで、がん細胞にダメージを与えることができ、最終的に細胞を自殺に追い込むことができます。ALAはサプリメントなどでも販売されておりますが、治療には高純度の内服カプセルや点滴、皮膚から浸透させるクリームなどを用いて投与し、がん光免疫療法を行います。
③クルクミン
天然成分のポリフェノールの一種で、「ウコン」の成分としても知られています。食品のスパイス(カレーなど)や、鮮やかな黄色をしていますので天然の着色料としても使用されている安全な成分です。効果としては抗酸化作用があり、肝機能改善効果、アルコールを飲む際のお供としても使用されており、認知症の抑制効果や発がんを抑制効果、がん細胞そのものを死滅させる効果もいわれています。また、がん光免疫療法としても、特定の波長に反応しがん細胞を選択的には死滅させることができます。クルクミンは吸収の高い内服カプセルをがん治療として推奨しておりますが、特に光免疫療法に用いる場合は点滴のクルクミン製剤を用いています。
④レザフィリン等
以前より肺がんや食道がん、脳腫瘍などに対し、手術中などに行われてきた光線力学療法(PDT)において用いられてきた承認薬であり効果や副作用などの報告もすでにあるため、扱いやすい特徴があります。使用にあたっては、投与後光線過敏症を起こすことがあり、投与後2週間は直射日光を避けて、照度の管理された室内で過ごしていただくなどの治療後の生活制限を伴います。
⑤超音波感受性物質
光の特徴として、表皮からの距離が深い場合には届きにくい特徴がありますが、超音波は皮膚から6センチの距離まで進達できます。それに着目して開発された超音波感受性物質を用いて、これをがん細胞に集中させることにより、がん細胞を死滅に追いやるがん超音波免疫療法を行います。超音波にはICGやALAも反応することが報告されていますが、より超音波への反応性の高い感受性物質を用いて行うことで、本来がん光免疫療法が不得意とする深い場所にある肝臓や肺、腎臓、副腎、リンパ節、前立腺、膀胱、子宮、卵巣、膵臓などのがんに対しても超音波と併用することで、治療可能になるケースが増えます。
光免疫療法・超音波免疫療法の免疫的な効果
光や超音波により光反応を誘発しがん細胞を破壊した際に、がん細胞の目印(抗原)が細胞外に放出されます。この抗原を体内に存在する免疫細胞が認識し、離れた場所にあるがん細胞にも攻撃を行います(アブスコパル効果)。がん光免疫療法やがん超音波免疫療法では、がん細胞だけを選択的に破壊するので、破壊されるがん細胞の近くの免疫細胞の働きに影響を与えることなく、免疫活性が高い状態で抗原を提示することができるという特徴があります。一度の治療で長期間の効果が期待できるのも特徴です。
がん光免疫療法の適応について
大腸がん、直腸がん、十二指腸がん 膵臓がん 食道がん 胃がん 肝がん 腎がん 胆管がん 膀胱がん 前立腺がん 甲状腺がん メラノーマ 肺がん 乳がん 子宮体がん 子宮頸がん 卵巣がん 口腔がん 喉頭がん 咽頭がん など
こんな方が受けられています
- 副作用が少ないがん治療をご希望の患者さま
- 末期がん(ステージⅣ)の患者さま、難治性がんの患者さま
- 抗がん剤や放射線治療との併用を考えられている患者さま
リスク・副作用
- 点滴や皮下穿刺などの際に、まれに皮下血腫・神経損傷などの合併症が起きることがあります。
- 天然成分を主に用いていますが、まれにアレルギーなどをおこす場合があります
- 光や超音波は熱や痛みを伴うようなものではございませんので、ご安心ください。
- 効果は必ずしも全員に同じように現れるわけではありませんので、他の治療などをお勧めする場合があります。
治療の流れ
STEP-1 カウンセリング
医師が状態を診断し、治療の内容について詳しくご説明いたします。
画像データや採血データなどお持ちでしたらご持参ください。
STEP-2 感作物質の投与 点滴や内服などその方にあった物質を投与します。
STEP-3 光、超音波照射 がんの場所などにより照射方法を計画します。
STEP-4 治療効果の評価 1セット治療の終了後に治療効果を評価します。
承認医薬品等であることの明示、入手経路等の明示
本治療に用いる光感受性物質およびレーザーおよび超音波ディバイスについては、医療機器等法上の承認を得ていないものです(一部承認医薬品の承認外治療を含む)。院内調剤(一部外部 委託)として、適法に調剤しています。 日本では、未承認医薬品を医師の責任において使用することができます。
ほかの国内承認を受けている医薬品等の有無
本治療に使用できる同一の性能を有する他の国内承認医薬品はありません。
光線力学療法(Photodynamic Therapy:PDT)として国内にて承認済の医薬品等として以下のものがあります。
- ルフィマーナトリウム(商品名:フォトフリン®:ファイザー株式会社)は光感受性物質であり、レーザーディバイス(商品名:エキシマ・ダイレーザー、AG-OPOレーザー)との組み合わせによるPDTは、早期肺がん、早期食道がん、胃がん、早期子宮頚がんに対して、1994年に保険承認されています。
- ラポルフィンナトリウム(商品名レザフィリン®:Meiji Seikaファルマ株式会社)は光感受性物質であり、レーザーディバイス(商品名:PDレーザ)との組み合わせによるPDTは、早期肺癌、原発性悪性脳腫瘍、化学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道癌に対して、2003年に保険承認されています。
- セツキシマブサロタロカンナトリウム(商品名:アキャルックス®:楽天メディカルジャパン株式会社)は、レーザーディバイス(商品名:BioBlade®レーザシステム)との組み合わせによるPDTは、切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌に対して、2020年に条件付早期承認されています。
諸外国における安全性等に係る情報の明示
Photodynamic therapy in cancer treatment - an update review
Ancély Ferreira dos Santos, Daria Raquel Queiroz de Almeida, Leticia Ferreira Terra, Maurício S. Baptista, Leticia Labriola/dos Santos et al. J Cancer Metastasis Treat 2019;5:25
Photodynamic therapy for cancer: role of natural products
Behzad Mansoori, Ali Mohammad, Mohammad Amin Doustvandi, Fatemeh Mohammadnejad, Farzin Kamari, Morten F. Gjerstorff, Behzad Baradaran, and Michael R. Hamblin Photodiagnosis Photodyn Ther. 2019 June ; 26: 395–404. doi:10.1016/j.pdpdt.2019.04.033.
Photodynamic therapy of cancer : an update
Patrizia Agostinis, Kristian Berg, Keith A. Cengel, Thomas H. Foster, Albert W. Girotti,Sandra O. Gollnick, Stephen M. Hahn, Michael R. Hamblin, Asta Juzeniene, DavidKessel, Mladen Korbelik, Johan Moan, Pawel Mroz, Dominika Nowis, JacquesPiette, Brian C. Wilson, and Jakub Golab/ CA Cancer J Clin. 2011 ; 61(4): 250–281. doi:10.3322/caac.20114.
Photodynamic therapy and photothermal therapy for the treatment of peritoneal metastasis:a systematic revie
Amandine Pinto and Marc Pocard/ Pleura and Peritoneum 2018; 20180124
Clinical potential of photodynamic diagnosis and therapy of tracheobronchial malignancies in the visible and infrared spectral ranges
Garry Papayan, Sergey Goncharov, Nikita Kazakov, Andrey Strui, Andrey Akopov/ Translational Biophotonics. 2020;2:e201900019.
The potential of photodynamic therapy in current breast cancer treatment methodologies
Elzbieta ˙ Ostanska, David Aebisher, Dorota Bartusik-Aebisher/ Biomedicine & Pharmacotherapy
Volume 137, May 2021, 111302
※当院で使用するレーザーディバイス(MLDS)
ヨーロッパ:CEマーキング、カナダ:Health Canada(カナダFDA)アメリカ:US-FDA (外部レーザー治療、静脈内は適応外使⽤)等の国々で承認済医療機器です。日本国内未承認。